テコンドーの足技は多岐にわたりますが、その中でもひときわ華やかで、観る者の目を釘付けにする競技があります。それが「スペシャルテクニック(トゥッキ)」です。スペシャルテクニックは、ITFテコンドーの公式競技種目のひとつで、指定された跳び蹴りによって、「いかに高い場所」あるいは「いかに遠い場所」にある板を正確に蹴り割れるかを競います。高い打点での跳び蹴りを特徴とするテコンドーならではの競技であり、跳躍力、柔軟性、正確性といった身体能力を総合的に鍛えることができます。今回は、スペシャルテクニックの基本的なルールと、その奥にある魅力について紹介します。 スペシャルテクニックのルール ペシャルテクニックでは、あらかじめ定められた跳び蹴りの技で、「どれだけ高い位置にある板を蹴れるか」「どれだけ遠い位置にある板を正確に蹴れるか」を競います。指定される技は以下の5種目ですが、国内の多くの大会では①ティミョ・ノピチャギのみが採用されています。 ①ティミョ・ノピチャギ(跳び前蹴り)②ティミョ・トルリョチャギ(跳び回し蹴り)③ティミョ・パンデトルリョチャギ(跳び後ろ回し蹴り)④ティミョ・360°トルミョヨプチャチルギ(跳び360°横蹴り)⑤ティミョ・ノモチャギ(跳び乗り越え横蹴り) 試技後、審判は・成功と判断した場合は青旗・失敗と判断した場合は赤旗を掲げます。 判定の基準は、主に次の3点です。 ・完全な打撃板は完全に割るか、完全に蹴り抜かなければなりません。触れただけ、ヒビが入っただけでは無効となります。高い位置でも威力を失わない、確かな打撃力が求められます。・正確な部位技ごとに指定された方法・足の部位(足刀・上足底・踵など)で蹴る必要があります。偶然当たっただけの接触は評価されません。・着地のバランス板を割った後、転倒せずにバランスを保って着地し、制限時間内に指定された構えを取らなければなりません。これは「技を放った後も次に備える」という武道の精神(残心)に基づくものです。 青旗が過半数であれば有効、赤旗が過半数であれば無効となります。有効となった試技の高さや距離で勝者が決まります。 各技の特徴と見どころ ① ティミョ・ノピチャギ(跳び前蹴り)競技内容: 「高さ」を競う特徴:最も基本的でありながら、最も純粋な跳躍力が問われる技です。正面に設置された板に向かって助走し、高く跳び上がって前蹴りで板を割ります。見どころ:身体を小さく折りたたみ、バネのように一気に開放する瞬間。トップ選手になると、自身の身長を遥かに超える2メートル50センチ以上の高さに到達することもあります。まるで空中に階段があるかのように駆け上がる姿は圧巻です。 ② ティミョ・トルリョチャギ(跳び回し蹴り)競技内容: 「高さ」を競う特徴: 空中で体を捻り、回し蹴りで板を捉えます。垂直方向へのジャンプ力に加え、空中での腰の回転が必要となります。見どころ:空中で一度静止したかのように見える美しいフォーム。柔軟性がなければ足を高く上げても板に届きません。高さと美しさが同居する技です。 ③ ティミョ・パンデトルリョチャギ(跳び後ろ回し蹴り)競技内容: 「高さ」を競う特徴: 非常に難易度の高い技です。ジャンプと同時に空中で体を回転させ、その遠心力を利用して踵(かかと)で板を蹴り割ります。見どころ:ターゲットから一度目を切り、回転して再びターゲットを捉える「ブラインド」の要素が入ります。空間認識能力が極めて重要で、回転のスピードとタイミングが合致した時の破壊音は会場に響き渡ります。 ④ ティミョ・360°トルミョヨプチャチルギ(跳び360°横蹴り)競技内容: 「高さ」を競う特徴:名前の通り、空中で360度(1回転)してから横蹴りを放つ技です。フィギュアスケートのジャンプのような回転力と、正確なキックの制御が求められます。見どころ:最も華やかでアクロバティックな技です。回転の勢いを殺さずに、最後のインパクトへ繋げる空中制御はまさに職人芸。観客からの歓声が最も上がる種目の一つです。 ⑤ ティミョ・ノモチャギ(跳び乗り越え横蹴り)競技内容: 「距離(遠さ)」を競う特徴: この種目だけは高さを競うものではありません。障害物(ハードルなど)を飛び越え、その奥にある板を横蹴りで割ります。見どころ:陸上競技の幅跳びに、武道の打撃を加えたような競技です。長い滞空時間が必要で、空中を滑空するような「浮遊感」が見る者を魅了します。 スペシャルテクニックが育む力 スペシャルテクニックの鍛錬を通じて培われるのは、単なる脚力だけではありません。・爆発的な「跳躍力」・極限まで引き出された「柔軟性」・空中で身体を制御する「バランス感覚」・ミリ単位で狙いを定める「正確性」・観る者を惹きつける「表現力」といった、日常生活や他のスポーツにも通じる総合的な身体能力を身に付けることができます。 さらに、この競技には避けて通れない精神的な壁があります。それは、恐怖心に打ち勝つ「度胸」です。高い位置への挑戦、失敗すれば怪我につながる可能性、そして一度の試技が勝敗を左右する緊張感。選手は常に恐怖と隣り合わせの中で、制限時間内に助走し、跳び、技を出し切ります。その経験の積み重ねが、確かな度胸と自信を育てていきます。 スペシャルテクニックは、テコンドーの跳び蹴りを極限まで突き詰めた競技です。そこには、身体能力の追求と同時に、自分自身の限界に挑み続ける姿があります。観る者が心を動かされるのは、単なる高さや派手さだけではありません。恐怖と向き合い、それを越えた一瞬が、確かな説得力をもって演武に表れる、その瞬間こそが、スペシャルテクニックの最大の魅力なのです。TKD-SORA(押上テコンドークラブ / テコンドー押上道場 )でも選手の育成を行っていきます。これから素晴らしい選手が育つことを楽しみにしています。