一人稽古のすすめ

道場での稽古は、私たちが技を磨き、身体を鍛え、心を養ううえでかけがえのない時間です。仲間と一緒に汗を流し、先生から直接学ぶことで得られるものは非常に大きいでしょう。
しかし、真の成長やライバルとの間に「差」を生むのは、その稽古と稽古のあいだにある、誰にも見られない個人練習、すなわち「一人稽古(ひとりげいこ)」の時間です。
テコンドーをはじめとする打撃技主体の武道や格闘技では、シャドー、サンドバッグ、型の反復など、一人で黙々と取り組む練習が上達のカギとなります。上級者を目指すのであれば、必ず取り組んでほしい稽古です。

一人稽古でできるメニュー

一人稽古といっても、やるべきことは多岐にわたります。例えば、以下のようなメニューがあります。

○基礎体力づくり:縄跳びや腹筋でリズム感と基礎体力を養う
○技の反復:シャドーやサンドバッグで前蹴り、回し蹴り、横蹴り、後ろ回し蹴りなどを重点的に磨く
○型の稽古:課題の型を繰り返すことで、姿勢や呼吸、力の伝え方を確認する
○ステップ・組手の感覚づくり:シャドーやステップの練習により実戦感覚を高める

帯の色によって課題は異なりますが、いずれの段階においても「体力」「基本技」「型」「組手の準備」という4つの柱は共通しています。
これらをバランスよく取り入れることで、短時間でも充実した稽古になります。

また、どこで練習するかによって、できる練習内容が変わってきます。
以下も参考にしながら、その日に練習できる場所・したい練習内容に合わせて、メニューを考えましょう。
【道場やジムなどの施設】
<メリット>
・サンドバックやトレーニング機器などの設備が整っている
・天候に左右されない
<デメリット>
・使える時間が限られている
・広いスペースが必要な、大きく移動する型などの練習が難しい

【公園など設備のない場所】
<メリット>
・時間に縛られない
・場所を広く使った練習がしやすい
<デメリット>
・雨だと練習が難しい
・サンドバックなどの設備を使った練習ができない

【自宅】
<メリット>
・隙間時間を使いやすい
・天候に左右されない
<デメリット>
・筋トレや柔軟など、その場でできる練習内容に限られる

以下にサンプルをご紹介しますので、メニューの組み立ての参考にしてみてください。

【道場での一人稽古メニューのサンプル】
・腹筋
・縄跳び2分×2-4ラウンド
・体操、ストレッチ5分程度
・シャドー(基本蹴りで代替可能)2分×1-3ラウンド
・サンドバッグ前蹴り(アプチャプシギor ティミョアプチャプシギ)2分×1-3ラウンド
・サンドバッグ回し蹴り(トルリョチャギ)2分×1-3ラウンド
・サンドバッグ横蹴り(ヨプチャチルギ)2分×1-3ラウンド
・サンドバッグ後ろ横蹴り(トルミョヨプチャチルギ)2分×1-3ラウンド
・サンドバッグ後ろ回し蹴り(パンデトルリョチャギ)2分×1-3ラウンド
・サンドバッグフリー2分×2-4ラウンド
・約束組手
・型 各課題までの型

【公園等での個人練習メニューのサンプル】
・縄跳び2分×2-4ラウンド
・体操、ストレッチ5分程度
・シャドー(基本蹴りで代替可能)2分×1-3ラウンド
・攻撃コンビネーションパターンを繰り返しシャドー
・ステップの繰り返し
・約束組手
・型 各課題までの型

【自宅での個人練習メニューのサンプル】
・腹筋
・体操、ストレッチ15分程度
・基本蹴り(アプチャプシギ スローキック)
・基本蹴り(トルリョチャギ スローキック)
・基本蹴り(ヨプチャチルギ スローキック)
・シャドー

一人稽古の量と質

【量の目安】
一人稽古は、1日1~2時間を週に数回程度が理想です。
ですが、それ以上に大切なのは継続すること。無理に長くやろうとするよりも、3時間を週1回より、1時間を週3回の方が身につきやすいのです。
まとまった時間が取れないときは、家でできる筋トレ・体操・ストレッチを活用しましょう。起床時・就寝前に筋トレ、テレビを見ながら柔軟するなど、「隙間の積み重ね」が、無理なく続ける力になります。
また、練習のしすぎにも注意しましょう。頑張ろうとする意欲は素晴らしいのですが、やりすぎは身体に負荷がかかり、怪我の原因となります。自分の身体もいたわり、適度な量を心掛けましょう。また、マッサージなど身体のケアをすることも練習のうちです。

【質を高めるためのポイント】
一人稽古の成果は質×量で決まります。量に限りがある以上、質を高めることで、効果を最大化しましょう。
○テーマを決める:
1回の一人稽古で、様々なテーマに取り組むより、テーマを絞って集中的に練習したほうが、練習の質が高まります。自分の課題や、直近の練習内容を基にテーマを決め、計画的に練習しましょう。
○自分の動きを確認する:
自分が思い通りに動けているか、自分では分からないものです。
例えば、道場では鏡で、公園ではスマホで撮影しながら、自分の動きを確認して練習することをお薦めします。
自分の動きを外側から見つめることで、改善点を見つけ、修正できているかをチェックすることができます。
上達度合いを確認することもでき、モチベーションの向上にもつながります。

一人稽古の心構え

1. 目標を持つ
「今日はトルリョチャギを高く蹴る」「型を最後まで力強くやり切る」など、小さな目標で構いません。目的があることで練習の質効果が高まります。
2. 無理をしない
体調がすぐれない時や痛みがある時は、休む勇気を持つことも大切です。怪我は一番の上達の妨げになります。
3. 楽しむこと
何より大切なのは「テコンドーが好き」という気持ちです。楽しさを忘れずに、前向きに取り組んでください。

道場での稽古との循環

道場で学んだことを、一人稽古で繰り返し確認することで技は身体に定着していきます。
逆に、一人稽古で見つけた課題や疑問を道場に持ち帰れば、指導を受けることでさらに技術が高まります。
「道場で学ぶ → 個人で磨く → 道場で向上させる」この循環こそが、上達の近道です。

強さは、道場での時間だけでなく、見えないところでの努力の積み重ねによって生まれます。一人稽古は、自分と向き合い、限界を押し広げるための最良の場です。積み重ねた時間は必ず力となり、試合や昇級・昇段審査、日常生活においても自信として現れます。どうか一人稽古を、自分の武道人生の味方にしてください。
そして、一人稽古で生じた疑問や課題は、遠慮なく道場で先生や先輩に相談してください。そのために道場があり、仲間がいるのです。一人での努力と道場での稽古が両輪となってこそ、確かな成長へとつながります。