『黒帯への道』― 稽古の「習慣化」

テコンドーを始めたばかりの頃は、「強くなりたい」「技を上達させたい」という気持ちが強く、自然と稽古へ向かう足が軽くなるものです。しかし、続けていくうちに、仕事や学校の予定、体調、気分によって「今日は少し面倒だな」と感じる日も出てくるかもしれません。
山上先生は、これまで多くの生徒を指導してきた中で、黒帯に進んでいく人には共通点があると感じてきたそうです。
それは、モチベーションがあるだけではなく、稽古を休まず継続する「習慣化」が身についているということです。
そして、習慣化が身についている人ほど、黒帯を取得した後も成長を止めず、長くテコンドーに向き合い続けています。
「テコンドーが上手くなりたいと思うなら、ぜひ“習慣化”を身につけてほしい」 山上先生はそう語ります。

■ なぜモチベーションだけでは上達が難しいのか

モチベーションは気持ちの状態に左右されます。
忙しさ、疲れ、ストレスなどさまざまな要因で上下するため、長期的な上達の軸としては向いていません。
テコンドーは、技、体力、精神の鍛練を積み重ねていく武道です。白帯から黒帯までの道のりには、コツコツと積み重ねる時間が欠かせません。
だからこそ、上達の土台となるのはモチベーションだけではなく、そこから習慣として定着させ、モチベーションに波があっても継続できる力なのです。
もちろん、モチベーションは習慣化の第一歩として大切な要素です。うまく活用して、習慣化が定着するまで持続させたいものです。

■ 一人稽古にも習慣化が重要

黒帯を目指すのであれば、一人稽古は不可欠な取り組みです。自分自身で時間を作り、練習メニューを組み立て、道場での稽古を補う必要があります。
日々忙しい生活を送り、疲れやストレスを抱える中、こうした一人稽古を継続するのは大変な努力を要することです。
その一人稽古を続けるために重要なのは、やはり習慣化です。
習慣化ができている人は、一人稽古を長続きさせることができ、最終的に、習慣化できていない人との実力の差が明確に表れてきます。

■ 日々の稽古を「習慣」にするためのヒント

習慣化には、少しの工夫が効果的です。
道場の稽古だけでなく、一人稽古にも使えるヒントを紹介します。

1.行動のハードルを下げる

「今日は完璧に練習しよう」と構える必要はありません。
まずは 時間に余裕をもって道場に行く/お気に入りのトレーニングウエアに着替える/5分だけストレッチや筋トレをするといった小さな行動を目標にしましょう。行動を始めると、自然に次の動きにつながります。

2.決まった時間に組み込む

毎週のスケジュールの中に、「テコンドーの時間」を固定してしまいましょう。
「時間があったら行く」ではなく、「この時間は稽古をする」と決めることがポイントです。
一人稽古の場合も、まずは短時間でも十分です。時間を決めれば続きやすくなります。

3.小さな変化を自分で認める

「前より蹴りが高く上がった」「継続できた」など、どんな小さな変化でも構いません。
毎回の稽古で、少しでも自分ができるようになったことを確認できると、次の稽古も楽しみになり、稽古を続ける意味が見出しやすくなります。その積み重ねで成長が実感できると、習慣化に繋がりやすくなります。

4.仲間や環境を味方にする

道場には、一緒に学ぶ仲間がいます。同じ目的を持ち、辛い稽古を一緒に乗り越える人の存在が、習慣化を力強く支えてくれます。
押上道場には、職業も年齢も異なる仲間が集まっています。様々な背景の稽古生たちと切磋琢磨しあうことは、社会人にとって非常に貴重な財産となります。そんな仲間たちと今週も会いたい、一緒に稽古をしたいと思えたら、自然と道場に足が向くはずです。

■「悪い習慣」を作らない

習慣化は、良いことだけに働くとは限りません。
遅刻する、きちんと挨拶をしない、稽古で集中しないなど、一度許してしまうと何度も繰り返すようになり、それが常態化してしまいます。
稽古を習慣化すると同時に、悪い行動を習慣化させないことが重要です。

■ 習慣化は、黒帯への確かな道

「やる気があるからやる」から一歩進んで、
「決めたからやる」「やるのが自然になっている」状態をつくること。
これが、黒帯へ向かう確実な道です。
そして、黒帯は決して終着点ではありません。黒帯になった後の道筋を照らすためにも、習慣化の力が必要なのです。