自由組手の稽古のポイント

テコンドーの組手には、大別すると「約束組手」と「自由組手」があります。
約束組手は、あらかじめ決められた動作を行う組手の稽古法です(約束組手に関する記事はこちら!)
それに対し、お互いが自由に攻防するのが自由組手で、一般的には「フリースパーリング」とも呼ばれます。攻撃部位やターゲットに対しての制限はあるものの、より実戦に近く、自らの動きは相手の動きによって決まるため、相互に戦術を競い合うことになります。型や約束組手のように一定のシナリオが存在せず、相手の動きも、それに呼応する自身の動きや戦術も事前に予測することができないことから、技の性質の理解がより必要とされ、難易度も重要度も高い競技です。

今回は、自由組手の稽古にあたり、知っておいていただきたいポイントをご紹介します。

「知彼知己百戦不殆」

日本語に書き下すと、「彼を知り己を知れば百戦殆からず」という孫子の有名な格言があります。敵の実情を知り、己の実情を知っていれば、百回戦っても敗れることがないという意味で、スポーツやビジネスでもよく取り上げられる言葉です。 テコンドーの自由組手の本質も、この言葉に集約されます。 上述のとおり、自由組手では、お互いに自らの動きは相手の動きによって決まります。相手の動きに合わせ、自身の状況も踏まえて戦術を立て、効果的な防御、攻撃の技を繰り出せるかが勝敗を左右します。 以下で具体的な戦術要素を紹介しますが、いずれもこの言葉が当てはまります。

自由組手の戦術要素

○ 防御
 ・常に安定した体勢を維持
テコンドーは、防御を第一の目的と据える武道です。事実上、安定したバランスの取れた状態の相手に攻撃をすることは極めて難しく、無理をして攻撃を仕掛ければかえって自らがバランスを崩し、相手に攻撃をする隙を与えてしまいます。そのため、常にバランスの取れた体勢を維持することが大切です。また、相手の戦術を研究し予測することが非常に大切です。相手の戦術や技を研究せずにやみくもに攻撃しても、成功しません。礼を終えると同時に一歩下がり、まずは相手をよく見て動きを探ることが勝利の秘訣です。
 ・ブロックとフットワークによる回避
具体的な防御方法には、ブロックやフットワークによる回避があります。いずれも相手の攻撃をよく見て体勢を維持して行う必要があります。
◇ブロック:相手からの攻撃から急所を守るため、手や腕を用いて攻撃を止めます。急所を守りながらも相手の攻撃を受け止めるため、多少のダメージを追う可能性があります。しかしながら、ブロックできるということは相手にいつでも攻撃できる位置にいることにもなり、反撃につなげやすいというメリットがあります。
◇ フットワークによる回避:移動によって相手の攻撃を避けます。相手の攻撃が届かない安全な位置まで移動するため、ダメージを受けることがありません。しかしながら、相手との距離が遠くなることで反撃にも時間がかかってしまうことがあります。また、身体を動かすことにより体力を消耗します。もちろん、フットワークや見切りが洗練されれば反撃のチャンスも大きくなり、消耗も小さくなります。
 ・防御のバリエーション
同じ防御技を繰り返すと、相手に動きを読まれ簡単に突破されてしまうため、防御のバリエーションを増やすようにしましょう。

○ 攻撃
 ・相手の隙を突く
自由組手では、相手に隙を生じさせ、その瞬間を逃さず瞬時に攻撃しなければなりません。攻撃を相手に読まれてしまっては、それはすでに失敗です。そのため、常に相手が隙をついて入ってこれないよう鉄壁の体勢をとりながら、相手が隙を出したときに決定的な一撃を加えられるよう、チャンスをつくり出すことに全力を傾けなければなりません。
 ・適切なターゲットの選択
攻撃を成功させるには、技のスピードやパワーだけでなく相手がブロックしにくい場所を狙うことが大切です。例えば、相手が頭を守っている場合はお腹、お腹を守っている場合は頭を狙うと、ブロックされにくくなります。
 ・攻撃のバリエーション
防御と同様、攻撃もバリエーションが重要です。いつも同じ攻撃技では、簡単に防御されてしまいます。
 ・跳び蹴り
跳び蹴りにより相手の意表を突いた攻撃をすることも有効です。

○ フェイント
 ・相手を崩し、瞬時に攻撃
上記で、攻撃のポイントとして、相手の隙を突くことを紹介しました。相手に隙を生じさせるためには、フェイントで相手の体勢を崩す方法があります。 フェイントによって相手が急所を露出するのは極めて瞬間的なため、瞬時に強い攻撃を加えられるよう用意万端の体勢を備えておくことが何より重要です。  ・相手に見破られない
フェイントを成功させるには、フェイントと本当の攻撃を見分けられないようにしなければなりません。相手に見破られてしまっては、フェイントをしても相手の体勢は崩れず、本当の攻撃も防御されてしまいます。フェイントも本当の攻撃も相手に悟られないよう、技術を磨きましょう。
 ・フェイントの代表例
フェイントには様々な種類がありますが、代表的な例を紹介します。
◇ 拳で上段を攻撃するふりをして、相手が瞬間的に腕を上げるように誘い、露出した肋骨をヨプチャチルギやアプチャプシギで攻撃する。
◇ 動くと見せかけ、相手が攻撃と錯覚し対応しようと動くとき、素早く攻撃する。
◇ 体勢を変更したり、変更するふりをすることで、相手に対し攻撃チャンスの判断を誤らせる。

動作における各区分の違い

○ 攻防一体の技
 ・避けながら攻撃する
相手の動きを読み、攻撃を紙一重のところでギリギリかわすと同時に攻撃を行います。
 ・相手の攻撃を迎え撃つ
相手の攻撃を読み、一瞬早く自分の攻撃を当てます。

稽古におけるコンタクトの強度の段階

組手の練習は、技術の向上と安全に配慮して行います。コントロールされ、身体のバランスの取れた技で攻防ができるようにするため、当道場では組手のコンタクトの強度を次の段階に分けています。
このように、段階を経て経験を積みむことで、勇気や勝利の感覚、対戦能力、対戦意識を身に付けることが出来ます。
① ゆっくりマススパーリング(※1)
② マススパーリング
③ ゆっくりライトスパーリング(※2)
④ ライトスパーリング
⑤ フリースパーリング(※3)
※1 マススパーリング:相手に打撃を与えず、当てる寸前で止めるスパーリング。距離感やタイミングを計り、スピードをコントロールする必要があるため、繰り出す技の的確な間合いをとる目を養い、技術の向上に役立つ
※2 ライトスパーリング:相手に打撃を軽く与えるスパーリング
※3 フリースパーリング:実際の競技と同様に、相手に打撃を与えるスパーリング
(武道や道場によって呼び方や内容が異なる場合があります)

今回は、自由組手の稽古にあたり、知っておいていただきたいポイントをご紹介しました。
自由組手は、テコンドーの基本稽古や型で学んだ技を実際の相手に適用するためのものであり、型や基本動作の稽古と切っても切れない関係にあります。他の種目の稽古は自由組手の上達に直結し、今回ご紹介した内容は自由組手だけでなく他の種目の競技にも活きてくるものです。相乗効果を意識しながら、稽古に取り組んでみてください。
また、テコンドーは、他の人を傷つける手段ではなく、自分自身や弱者を守り道徳や正義・平和を構築するための武道です。大会で勝利しただけで傲慢にならず、何のための技術なのかを再認識し、更なる精神や技、身体の向上に努めましょう。