ITFテコンドーの歴史

現在、テコンドーには、大きく分けて「国際テコンドー連盟(ITF)」と「ワールドテコンドー(WT)」の2つの国際組織があります。 いずれも、1955年に韓国の崔泓熙(チェ・ホンヒ)総裁が命名したテコンドーを起源としていますが、それぞれの国際組織が設立され、2つの系統に分かれて発展していくことになりました。
今回は、押上テコンドークラブが教えるITFテコンドーについて、歴史を紹介します。
ITFとWTに関する記事は こちら!

テコンドー誕生までの歴史

生まれつき身体が虚弱だった崔泓熙氏は、15歳の時に書道の先生の勧めで、テッキョン(韓国の伝統武芸)を習いました。また、日本留学中には空手を習得しました。1946年に韓国陸軍の少尉に任官すると、肉体と精神の訓練のため、兵士たちに空手を教え始めました。そこで、日本の空手ではなく、精神的にも技術的にもより優れた韓国独自の民族武術を開発する必要性を感じ、約9年をかけて新しい武道の研究を重ね、1955年にテコンドーを創設しました。この頃に型(トゥル)も作られ始めており、初めて考案されたファラン、続いてチュンム、ウルチが1955年から1956年に開発されました。
テコンドーは、崔泓熙総裁に知識のあったテッキョンや空手の影響を受けていますが、その技術は現代科学に基づいて開発・体系化されており、精神は東洋の伝統的な倫理・道徳や、崔泓熙総裁自身の哲学が反映された独自の武道です。テコンドーの基本的な理論や原理は世界のどの武術ともまったく異なるものです。また、テコンドーは礼儀や謙虚さなどの精神性を重んじ、自衛や正義のためにのみ使用される武道です。

ITF発足までの歴史

1959年、テコンドーは国境を越えて広がりました。崔泓熙総裁と黒帯保持者19 人が極東を巡回し、演武会を行いました。テコンドーの卓越した技術に観客は驚き、大成功を収めました。 同年、崔泓熙総裁は大韓テコンドー協会を創設し、会長に就任しました。
1965年、韓国政府の命により、崔泓熙総裁が使節団長を務める「国技テコンドー親善使節団」は、西ドイツ、イタリア、トルコ、エジプト、マレーシア、シンガポールへ遠征しました。演武会は大成功し、結果的に遠征した国々でテコンドー協会が創設されることになりました。この遠征は、現在の国際テコンドー連盟(ITF)設立の基礎ともなりました。1966 年、ベトナム、マレーシア、シンガポール、西ドイツ、米国、トルコ、イタリア、エジプト、韓国の承認を得て、韓国のソウルでITFが設立されました。

その後のITFの歩み

1966年創設当時に韓国のソウルにあったITF本部は、1972年、政治的な理由でカナダのトロントへ移転されました。その後、1985年、東側諸国でのテコンドー普及のためオーストリアのウィーンに移転され、現在に至ります。
創設時に9か国だったITFは急速に大きくなり、2年後には加盟国が30か国となりました。日本では、1983年に、世界で76番目の協会となる日本国際テコンドー協会(ITF-JAPAN)が発足しました。
1969年には、初めての国際大会となる第一回アジアテコンドー選手権大会が香港で、1974年には、第一回世界テコンドー選手権大会がカナダのモントリオールで開催されました。いずれの国際大会も今日まで続いており、2025年1月現在、アジア大会は第10回、世界大会は第22回までになっています。
現在、ITF加盟国は133か国にもなります。世界中に普及することができた要因の一つとして、1983年に刊行された「テコンドー百科事典」があります。技術、力の理論、訓練カリキュラム等が体系化されたもので、世界各国の指導者がITFテコンドーの技術を伝えるための1つの基準となっており、世界中の稽古生が統一されたテコンドーを学ぶことができます。
テコンドー百科事典に関する記事はこちら!
このようにして、現在、テコンドーは世界中の老若男女に親しまれているのです。

【ITFの歴史 年表】
・1955年4月11日
 崔泓熙将軍がテコンドーを紹介する。
・1966年3月22日
 国際テコンドー連盟(ITF)が韓国のソウルで発足。設立メンバーには、ベトナム、マレーシア、シンガポール、西ドイツ、米国、トルコ、イタリア、エジプト、韓国の各国協会が名を連ねた。
・1972年1月
 ITF本部をカナダのトロントに移転。崔泓熙総裁は、当時の韓国大統領および軍事独裁政権との政治的不和や、テコンドーの全世界への普及促進を理由に、カナダに亡命。
・1983年
 「テコンドー百科事典」刊行
・1985年
 東側諸国におけるテコンドーの普及を支援するために、ITF本部がオーストリアのウィーンに移転。
・2002年6月15日
 テコンドー創始者・初代ITF総裁の崔泓熙氏が死去。
・2002年9月22日
 国際オリンピック委員会(IOC)委員の張雄(チャン・ウン)氏が第2代ITF総裁に選出される。
・2015年8月26日
 李勇鮮(リ・ヨンソン)氏が第3代ITF総裁に選出される。

ITFテコンドーは、崔泓熙総裁の経験や強い正義感などから作られた、技術的にも精神的にも非常に優れた武道であることが分かります。
急速に世界に普及し、現在も世界中のたくさんの人々に親しまれていることからも、人々を魅了する素晴らしい武道であると言えるでしょう。
稽古生は、自身が習っているテコンドーに誇りと自信を持ちましょう。
また、テコンドーの本質を理解し、創始者の想いに適った正しいテコンドーを実践するためにも、創設の背景や歴史を知ることは大切です。
これらの知識を持ったうえで、テコンドーの名に恥じない修練や日頃の行動を心掛けましょう。