テコンドーの「力の理論」

人は普段、自身の潜在能力の10%~20%しか使っていません。しかし、100%発揮できるように訓練すれば、体格、年齢、性別に関係なく、誰でも破壊的な技を繰り出せるようになります。
今回は、崔 泓熙 (チェ・ホンヒ)総裁の「THEORY OF POWER」より、身体にある潜在能力を最大限引き出すテコンドーの技の「力の理論」の概要をご紹介します。

テコンドーの稽古では、力の理論に則った反動力、集中、均衡、呼吸のコントロール、速度を突き詰める訓練をします。 これにより、潜在能力を効果的に発揮できるようになります。

反動力

テコンドーの技は、すべての力はその力と等しい反対の力を持つという、ニュートンの「作用・反作用の法則」を利用しています。相手から受ける反動力、自分自身が生み出す反動力の2種類があります。

  • 相手からの反動力:相手が自分に対して突進してきたとき、相手を打つ力=相手の突進する力+自分の打撃の力となります。相手が高速で突進してきた場合、自分は相手に軽い打撃しか加えなかったとしても、相手を打つ力は、2つの力が合わさって極めて強力な力となります。
  • 自分自身が生み出す反動力:自分自身で反動力を生み出すことで、技の威力を強めることが出来ます。例えば、右拳で打撃をするとき、左拳を腰に引くことで、打撃の威力が強まります。

集中

・打撃を最小の対象領域に集中させると、その効果は大きくなります。テコンドーの多くの技は、開いた掌の端や指の関節等、相手と接する面積が小さな部位に力を集中させます。
・攻撃の際、動作のはじめにすべての力を出し切るのではなく、相手と接触する瞬間に力を集中させるというように、集中する時間が短ければ短いほど、打撃の威力が大きくなります。
・力を集中させる方法は、まず、全身の筋肉、特に股関節や腹部周辺の筋肉の力を、適切なタイミングで攻撃に使用する部位に集中させます。そして、そのようにして力を結集させた筋肉を相手の急所に集中させます。

均衡

常に身体の均衡に保つこと、つまりバランスが取れていることで、打撃はより効果的で致命的なものとなります。
・均衡は、動的安定性と静的安定性に分けられます。動的安定性の過程の中で静的安定性が維持されることで、最大の威力が生まれます。
・立ち方や姿勢の重心は、両足に均等に体重がかかる場合は両足の中間の直線上に、片足に偏る場合はその足の中心に置きます。柔軟性と膝のバネも重要で、素早く攻撃したり、瞬時に体勢を立て直したりする際に役立ちます。
・衝撃の瞬間に、後ろ足のかかとが地面から離れてはなりません。バランスをとるためだけでなく、最大限の力を生じさせるためにも必要です。

呼吸のコントロール

呼吸をコントロールすることは、持久力やスピードに影響するだけでなく、防御態勢を整え、攻撃の威力を増強させることができます。
・相手の攻撃が当たった瞬間に息を吐いた状態で呼吸を止めることで、意識の喪失を防ぎ、痛みを抑えることができます。自分の打撃の瞬間に鋭く息を吐き、動作の実行中に息を止めることで、腹筋を緊張させ、動作に最大限集中することができます。ゆっくりと息を吸い込むことは、後に続く動作の準備に役立ちます。
・攻撃や防御に集中している間は、息を吸わないことが重要です。動きを妨げ、威力も弱まります。
・疲労していることが分かると攻撃を仕掛けられるため、呼吸を相手に悟られないようにする練習も必要です。
・連続的な動作を除いて、一回の動作には一呼吸が必要です。

質量

数学的には、最大の運動エネルギー、すなわち力は、最大の体重と速度から得られるため、打撃に体重を乗せることが非常に重要です。
・股関節を回す動作で最大体重がかかり、大きな腹筋がねじられることで、身体の運動量が増加します。そのため、股関節は、攻撃や防御を行う部位と同じ方向に回転します。
・膝関節のバネ作用を利用することも効果的です。動作の始めに股関節をわずかに上げ、衝撃の瞬間に下げて体重を動作に落とし込みます。

速度

速度は、威力を高めるために最も重要な要素であり、科学的には以下の式で表されます。
力=質量×加速度(F=MA または P=MV²)
・運動エネルギーの理論によれば、あらゆる物体は下方に向かうにつれて重量も速度も増します。テコンドーはこの原理を応用しており、テコンドーの打撃の大半は、手足が上方から下方に向かいます。
・反動力、呼吸のコントロール、バランス、力の集中、筋肉の弛緩は、速度に寄与する要素です。これらすべての要素を、柔軟でリズミカルな動作も合わせてうまく調和させることで、最大の威力を生み出すことができます。

速度と反射作用

・テコンドーの蹴りや突きは、反射時間よりも速いため、相手が技を出す前に察知する必要があります。そのため、足や腕ではなく、常に相手の目を見ていなければなりません。
・技の威力を高めるためには、速度が最も重要です。それは、以下の公式から明らかです。
 P=1/2 MV²
 (P=威力、1/2=定数、M=質量、V=速度)
例えば、速度が一定の場合、質量を3倍にすれば威力も3倍になります。しかし、質量が一定の場合、速度が3倍になれば威力は9倍にもなります。
そして速度は次のように表すことができます。
V=距離× 1/実行時間
つまり、距離が長いほど、そして技を実行する時間が短いほど速度が増し、その分威力が何倍にも増大します。

以上、潜在能力を最大限発揮するためのテコンドーの力の理論を、簡単にご紹介しました。
テコンドーの技が、いかに科学的に体系立てられた技術であるか、ご理解いただけたかと思います。
この力の理論を理解したうえで稽古に臨めば、指導に対する理解も吸収も、格段に高まることでしょう。