テコンドーの攻撃・防御部位、急所について

テコンドーの型(トゥル)には、一つひとつの動作に明確な目的と意味があります。ただ見た目の美しさを競うものではなく、実際の攻撃や防御を想定した動きであり、「どの部位で、どう動くか」を正確に意識することが、技の威力と精度を高めるカギになります。
さらに、試割りや組手(マッソギ)でも、攻撃や防御に使う身体の部位を理解し、的確に使うことで、テクニックとしての完成度が大きく変わってきます。
そしてもう一つ大切なのが、「急所」への理解です。急所は攻撃の的であると同時に、守るべき大切な場所でもあります。どのような場面でも安全に稽古を行い、正しく強く美しい技を身につけるためには、身体の各部位の役割をよく知ることが不可欠です。
今回は、攻撃や防御に使う身体の部位と、守るべき急所について整理し、それぞれの意味と使い方について解説します。普段の稽古での意識を一段深め、テコンドーの技に磨きをかける参考にしてください。

攻撃・防御に使う身体の部位

【手の部位】
・正拳
(アプチュモク):人差指と中指の第一関節で精緻に突く技に用いられる。手首を直線に保ち、力を直接伝える。人中、胸骨、鳩尾、顎、肋骨、腹部、心臓、脾臓、肝臓などへの攻撃に有効。
・裏拳(トゥンヂュモク):手の甲の側で打つ技。角度やを付けた攻撃や詰まった間合で有効。脳天、こめかみ、人中、額、肋骨、腹部への攻撃に有効。
・横拳(ヨプチュモク):拳を横に向けて打つ技。脳天、肋骨、腹部、肩関節、肘関節への攻撃に有効。
・手刀(ソンカル)/背刀(ソンカルトゥン):掌の側面を用いる技。顔面、こめかみ、首などの急所を狙う場面で使用。
・指先(ソンクッ):指先の突き。脇や鼠径部、目などの急所への攻撃に有効。
・肘(パルクップ):近距離での様々な部位への攻撃に使用。

【足の部位】
・上足底(アプクムチ):足裏の前側(つま先寄り)での蹴り。前蹴りや回し蹴りに使用。こめかみ、眉間、腹部、鳩尾、顔面、胸骨、人中、心臓、脾臓、肝臓、肋骨、鼠径部等への攻撃に有効。
・足刀(バルカル)/背足刀:足の側面。切れるような動きで攻撃するのに適する。こめかみ、眉間、腹部、鳩尾、顔面、胸骨、人中、心臓、脾臓、肝臓、肋骨、脇等への攻撃に有効。
・踵(ティクムチ)/後踵(パルティチュク):後ろ回し蹴りやかかと落としなどに使う部位。こめかみ、胸骨、腹部、鳩尾、顔面、胸骨、人中、心臓、脾臓、肝臓、肋骨、足の甲への攻撃に有効。
・足甲(パルトゥン):回し蹴りで多用される。人中、顔面、顎、腹部への攻撃に有効。
・膝(ムルップ):近距離での打撃に有効。人中、鳩尾、腹部への攻撃に有効。

これらの部位は、それぞれ攻撃・防御の用途によって使い分けます。たとえば、「正拳」は突き、「手刀」は防御や素早い打ち込みに適しています。蹴りでは、「足刀」「踵」「膝」などの選択によって威力や角度が変わります。

⚠注意:競技ルールでは禁止される部位も
型の動作に含まれる部位の中には、組手競技では使用が制限・禁止されているものもあります。たとえば、肘打ちや背後からの攻撃は試合では反則となる場合があります。あくまで型は“想定された状況での最大の威力と制圧力”を表しており、試合ではルールを守ることが大前提です。

急所(攻撃を避ける・守るべき部位)

急所とは、「攻撃のターゲットとなる部位」であると同時に、「絶対に守るべき部位」でもあります。競技中の安全のため、特定の急所への攻撃は得点にならないものも多くあります。
以下に主な急所を部位別に整理します。

【頭部・顔面】※組手競技では背面への攻撃は無効
・脳天(頭頂部):強い打撃は脳震盪を引き起こすリスクがある。
・こめかみ:骨が薄く、すぐ内側に脳があるため、衝撃で意識喪失やけいれんを引き起こす危険がある。
・眉間:顔面神経が集中しており、眼窩の近くでもあるため視覚や意識に影響が出やすい。
・後頭部:延髄や小脳に近く、倒れると二次的な損傷を引き起こす危険性が高いため、競技では厳重に禁止されている。
・眼球:非常にデリケートな器官で、損傷すると失明や視覚障害につながる。
・鼻柱(鼻の中心):軟骨と骨が交差する部分で、破壊されやすく流血や呼吸困難につながる。
・唇:血管が多く出血しやすい。ダメージが視覚的にも目立ち、試合の中断原因にもなりやすい。
・顎骨(上顎・下顎・横顎):衝撃が加わると首を介して脳に揺さぶりが伝わり、脳震盪や意識喪失のリスクがある。
・人中(鼻の下、唇の上の溝): 顔面神経の集中部であり、打撃によるショックが大きく、気絶を招くこともある。
・耳周辺(耳介、顎関節後部):内耳・平衡感覚に影響があるほか、顎関節打撃により開口障害や脳への衝撃が伝わる恐れもある

【首・のど】※組手競技では背面への攻撃は無効
・上頸部(後頭部〜首の後ろ):脊髄が通る重要な神経経路であり、損傷すると重篤な神経障害につながる。
・喉:気管を直撃すると、呼吸困難や窒息の恐れがあり、非常に危険。
・須動脈(左右の首の側面): 脳に酸素を送る太い動脈であり、圧迫や衝撃により意識喪失や心停止のリスクを伴う。

【胸部・腹部】
・鎖骨: 肩と首の連結点であり、骨折しやすく、腕の可動にも大きく影響する。
・胸骨:心臓を守る骨で、打撃により胸腔内臓器を損傷するリスクがある。
・心臓:打撃がタイミング悪く直撃すると心停止や心臓震盪を引き起こす可能性がある。
・上腹部(みぞおち):横隔膜があり、強く打たれると一時的に呼吸困難に陥る。
・へそ: 筋肉が薄く、内臓への衝撃が直接伝わりやすいため、危険度が高い。
・下腹部: 泌尿生殖器や内臓が集中しており、損傷は深刻な障害につながる。
・肋骨:肋骨骨折や内臓損傷(肝臓・肺など)を引き起こす可能性がある。

【背中】※組手競技では背中への攻撃は無効
・肩甲骨:肩の可動やバランスの中核であり、損傷により上肢の動きに支障をきたす。
・腎臓:体の深部にある重要な臓器であり、強打により血尿や腎機能障害を引き起こす危険がある。
・尾骨:坐骨神経が近く、転倒時に骨折しやすく、日常生活にも支障をきたす。

【腕】※組手競技では腕への攻撃は無効
・親指口:握力や細かい操作に影響し、日常動作に支障を与える。
・内手首動脈、外手首動脈:末梢循環の重要な血管であり、切創などによる出血リスクが非常に高い。
・手首、肘、肩関節:可動部であり、関節が損傷すると動作不能になる危険がある。関節技・脱臼に対しても弱い部位。
・脇:神経・血管が集中しているため、損傷は深刻な運動障害を伴うことがある。

【脚】※組手競技では脚への攻撃は無効
・足の甲:衝撃に弱く、骨折しやすい。歩行・蹴りに支障が出る。
・ひかがみ(膝裏): 靭帯・神経・血管が集中しており、打撃により膝関節の機能不全を招く恐れがある。
・膝関節:脚の支持構造として不可欠。打撃やねじれに非常に弱く、競技生命に関わる損傷が起きやすい。
・アキレス腱:歩行や跳躍に重要な腱で、断裂や損傷により長期離脱が必要になる重大部位。
・足首関節:可動域が広く、衝撃やねじれにより捻挫・靭帯損傷を招きやすい。
・大腱部:太い神経と血管が通っており、筋肉損傷だけでなく失血のリスクも伴う。
・脛骨(すね):骨が皮膚のすぐ下にあるため打撃に弱く、内出血や骨折が起きやすい。

これらの部位は一部の例ですが、攻撃に使う際には「当てる精度」と「力の集中」が重要であり、防御の際には「的を外す工夫」や「体の回転でかわす技術」も求められます。

まとめ:部位の理解が技の精度と安全性を高める

テコンドーの技は、正しい部位を理解し、適切に使うことではじめて「技」として成立します。それは単なる知識ではなく、戦うための技術であり、安全に戦うための知恵でもあります。
どこで打つか、どう守るか。その選択一つひとつが、技の精度やスピード、さらには安全性に直結します。型での力の集中、組手での的確な打ち分け、そして急所を避けた安全な攻防。それらはすべて、身体の部位とその働きを理解してこそ身につくものです。
普段の稽古から、動作の「見た目」だけでなく「意味」に目を向けましょう。使う部位に力を集め、守るべき場所は確実に防ぐ。そうした意識が、力強く洗練されたテクニックへとつながります。