テコンドーにおける「失敗」の価値

テコンドーの鍛錬では、思うように技ができない、試合で負ける、昇級審査でうまく力を発揮できない。そんな「失敗」を経験することもあるかもしれません。そんなときには、悔しさや自分への不甲斐なさを感じ、テコンドーを続ける自信を失ってしまうこともあるでしょう。しかし、テコンドーにおいて失敗は、決して恥ずかしいことでも、避けるべきものでもありません。むしろ、次の成長へ進むための大切な機会です。大切なのは、「失敗しないこと」ではなく、失敗した後にどう向き合うかです。今回は、テコンドーにおける「失敗」の価値について考えてみます。 ■失敗は「できないこと」を知る機会テコンドーを始めたばかりの頃から、すべてを完璧にできる人はほとんどいません。失敗を繰り返し、練習を重ねることで、少しずつ技術を身につけていきます。これは、上級者になっても変わりません。軸足がうまく使えない。狙った場所に蹴りが届かない。型の動作を間違えてしまう。こうした失敗は、「今の自分には、ここに課題がある」ということを教えてくれるものです。 試合や昇級・昇段審査も同様です。「負けてしまった」「審査に受からなかった」という結果だけを見て終わってしまえば、その経験を次に活かすことはできません。技術に問題があったのか。体力が足りなかったのか。緊張で普段の動きができなかったのか。その理由を振り返ることで、自分自身の課題が見えてきます。 できないことに気づかなければ、改善することもできません。失敗したからこそ自分の課題が明確になり、次に何を練習すべきなのかが見えてきます。 ■失敗を恐れず挑戦することの大切さ失敗には、もう一つ大きな意味があります。それは、失敗を経験することで「挑戦すること」の大切さを学べることです。失敗したくないと思えば、できることだけを繰り返すようになってしまいます。新しい技に挑戦しない。難しい型に取り組まない。試合に出ることを避ける。これでは、失敗は減るかもしれません。しかし同時に、新しい成長の機会も失ってしまいます。 もちろん、無謀に挑戦すればよいということではありません。現在の自分の力を理解したうえで、少し難しいことに挑戦する。そして、うまくいかなかったときには、その原因を考え、改善し、もう一度挑戦する。その繰り返しによって、自分のできることが少しずつ広がっていきます。 ■「失敗しない人」ではなく「失敗から立ち上がれる人」へテコンドーでは、技術だけでなく、精神面の成長も大切にしています。稽古や試合では、思い通りにならないことが必ずあります。そこで重要なのは、失敗しないことではありません。 失敗したときに、どう向き合うか。負けたときに、どう立ち上がるか。うまくいかないときに、もう一度挑戦できるか。こうした経験を重ねることで、少しずつ精神的な強さも身についていきます。 テコンドーの精神の一つに「百折不屈」があります。何度失敗しても、何度挫折しても、決してくじけず、立ち上がって前へ進むという姿勢です。失敗を経験するからこそ、そこから立ち上がる力を身につけることができます。 ■「失敗できる環境」も大切だからこそ、道場は失敗を恐れずに挑戦できる場所であることが大切だと考えています。大いに挑戦し、大いに失敗してください。もちろん、失敗したことをそのままにするのではありません。なぜうまくいかなかったのかを一緒に考え、どうすれば改善できるのかを指導し、次の挑戦につなげていく。押上道場では、そうした一つひとつの経験を成長につなげられるよう、稽古生の皆さんを支えていきます。そして、稽古生の皆さんにも、互いの挑戦を応援し、失敗した仲間を支え合いながら、ともに切磋琢磨していってほしいと思います。

『黒帯への道③』― 黒帯とは何か?

道着に袖を通し、白帯を締めたその日から、多くの稽古生が憧れる「黒帯」。武道に馴染みのない方の中には、「黒帯=達人(エキスパート)」というイメージを持つ方も多いかもしれません。ですが実際には、黒帯は「完成」を意味するものではなく、本格的な修練のスタート地点と考えられています。今回は、TKD-SORAが考える「黒帯とは何か」、そして、その先に目指すべき「理想の黒帯像」についてお伝えします。 🥋黒帯は「ゴール」ではなく「始まり」ITFの創始者である崔泓熙(チェ・ホンヒ)総裁は、黒帯を取得した者を「ようやく言葉を話せるようになった赤ん坊」に例えました。色帯の期間は、「教わったことを身につける」段階です。一方で黒帯は、「なぜその技になるのか」「どうすればより良くなるのか」を自ら考え、探求していく段階へと入ります。一段になった瞬間、洞察力のある稽古生は「自分はいかにわずかなことしか知らないか」を痛感します。そこで満足して「自分は達人だ」と錯覚してしまえば、成長は止まり、永遠に初心者のままでしょう。 逆に、そこからが本当の修行(テコンドージャーニー)の始まりだと気づいた者だけが、真の熟練者への道を歩むことができるのです。 🥋色帯と黒帯の違いでは、色帯と黒帯の違いはどこにあるのでしょうか。もちろん、技術力の差はあります。しかし、TKD-SORAでは、本質的な違いは「自立」と「責任」だと考えています。黒帯になるということは、単に技術を身につけることではありません。自ら考え、学び、成長していくことができ、道場や後輩に対して責任を持つ立場になるということです。 ○ 「自ら学ぶ力」を持つ色帯のうちは「先生に習った通りに動く」ことが中心ですが、黒帯は「自ら学び、研究する」段階に入ります。 技術の理屈を理解し、自分の身体と向き合い、さらにそれを後輩へと言語化して伝えることができる。「教わる人」から「自ら学び成長する人」へ。その転換こそが、黒帯に求められる自立であり、黒帯の大きな特徴の一つです。 ○ 「道場を支える」という責任黒帯は、自分だけが上達すれば良い立場ではありません。後輩の模範となり、道場の雰囲気や規律を守り、ときには周囲を支える役割も求められます。挨拶や礼儀、誠実さや思いやりを持った人との接し方、掃除への取り組み方、稽古に向き合う姿勢。そうした日常の行動も含めて、黒帯は常に周囲から見られる存在です。テコンドーは、技を磨くだけでなく人格を養う武道でもあります。だからこそ黒帯には、強さだけではなく、人としての信頼や品格も求められます。技術と人間性の両面で道場を支える存在となることが、黒帯に課せられた大切な責任なのです。 🥋TKD-SORAが考える理想の黒帯像色帯と黒帯の違いが「自立」と「責任」にあるとすれば、その先に目指すべき黒帯像はどのようなものでしょうか。TKD-SORAでは、理想の黒帯像は、大きく二つの側面から成り立つと考えています。一つは、現状に満足せず成長を追い求め続ける「探求者」であること。もう一つは、周囲に良い影響を与えられる「模範」であることです。 ○ 終わりなく成長を追い求める「探求者」黒帯は、白帯から積み重ねてきた修練の節目ではありますが、決して終着点ではありません。型(トゥル)、組手(マッソギ)、スペシャルテクニック(トゥッキ)、パワーブレイキング(ウィリョク)など、あらゆる技術において、その原理を深く理解し、精度を高め続ける姿勢が求められます。黒帯になると、どうしても「自分はできるようになった」という意識が生まれがちです。しかし、段位や実績に慢心せず、自分の未熟さを理解し、常に成長を続けようとする姿勢が、黒帯として求められます。 ○ 社会における「指導者・模範」黒帯には、自ら学び続けるだけでなく、その姿勢や経験を周囲へ還元することも求められます。そのため、技術面だけでなく、精神面においても模範となる存在でなければなりません。それは、道場内だけでなく、社会の中でも模範となるべき存在です。謙虚さをもって向上に努める。礼儀や責任感を持って行動する。強さを誇示するのではなく、周囲を導き、支えられる存在である。そうした姿勢は、学校や職場、家庭など、日常生活にも表れていきます。テコンドーを通じて培った価値観を社会の中で実践し、周囲に良い影響を与えられる存在であること。それもまた、理想の黒帯に求められる姿です。 TKD-SORAでは、黒帯を単純な「強い人」とは考えていません。もちろん、技術を磨くことは大切です。しかし、それ以上に重視しているのは、テコンドーの精神を日々の稽古や日常の中で実践できることです。今、白帯や色帯で汗を流している皆さんも、黒帯を「到達点」ではなく「さらなる成長への出発点」と捉え、日々の稽古に励んでください。 ▼過去の『黒帯への道』の記事はこちら!『黒帯への道①』― 各帯に込められた意味と役割『黒帯への道②』― 稽古の「習慣化」

テコンドーの服装規定

武道では、「礼に始まり、礼に終わる」と言われるように、正しく装うこともまた、礼儀の一つです。日本国際テコンドー協会では、競技者の服装規定が定められており、TKD-SORA(押上テコンドークラブ/テコンドー押上道場)でも、この規定に準じて稽古を行っています。また、服装規定は見た目だけの問題ではありません。安全に稽古を行い、自分や相手を怪我から守るためにも、大切な意味があります。今回は、押上道場での稽古において守っていただきたいテコンドーの服装規定について、主な内容をご紹介します。 日本国際テコンドー協会が定める服装規定(競技規定)はこちら!※必要に応じて「競技規定」もご参照ください。 ✊ 道着○ 正しい寸法を選ぶ袖や裾が長すぎると、自分の動きを妨げたり、足に引っ掛かって転倒する原因になります。適切なサイズの道着を着用することは、自身の心を整え、周囲への礼儀や敬意にもつながります。 ○ 紐類は外に出さない道着の紐やインナーが外から見えていると、見た目の問題だけでなく、安全面にも影響します。組手の際に指が引っ掛かるなど、思わぬ怪我につながることもあります。細部まで整えることも、武道における大切な心構えです。 ○ 適切な帯を着用する自身の級・段位に応じた帯を着用します。これまで積み重ねてきた努力や経験を表すものでもあります。帯を正しく締めることは、自分の立場や責任を自覚することにもつながります。 ✊ インナーウェア○ 女性の場合女性は、白無地のスポーツ用インナーを着用します。ただし、・襟付き・ボタン付き・ハイネック・長袖などは不可となっています。 ○ 男性の場合男性は、原則として上衣のインナー着用は不可となっています。 ○ スパッツ(レギンス)冬場の防寒や怪我予防のため、スパッツ等の着用は可能です。ただし、道着の裾から大きく見えない丈のものを使用します。 ✊ 身だしなみ・安全管理○ 爪は短く整える伸びた爪は、自分だけでなく相手を傷つける原因になります。稽古前には必ず確認しましょう。 ○ アクセサリー類は禁止ピアス、指輪、ネックレス、ミサンガなどの装飾品は、稽古前に外します。「これくらいなら大丈夫」と思っていても、組手の接触で大きな怪我につながる場合があります。 ○ 眼鏡・コンタクトレンズ組手では、眼鏡やハードコンタクトレンズは使用できません。破損時に大きな事故につながる可能性があるためです。ソフトコンタクトレンズは使用可能ですが、激しい動きで外れる場合もあるため、予備を用意しておくと安心です。 ✊ サポーター・保護具について怪我をした状態で稽古に参加する場合は、サポーターや包帯などを使用することがあります。その際は、事前に指導者へ相談するようお願いしています。これは、・金属部品など危険な素材が含まれていないか・稽古内容を調整する必要があるかを確認するためです。無理をして悪化させるのではなく、自分の状態を正しく把握しながら稽古に取り組むことも大切です。 テコンドーにおける道着の着こなしや身だしなみには、相手への敬意、安全への配慮、自分自身を律する姿勢といった、武道として大切な考え方が詰まっています。大会や昇級・昇段審査のときだけでなく、押上道場では、稽古の際もこれらの遵守を徹底しています。押上道場は、これからも「技」だけでなく、「礼」や「姿勢」も大切にしながら稽古を行っていきます。

テコンドー押上道場が目指す「もうひとつの活躍の場」

TKD-SORA(押上テコンドークラブ / テコンドー押上道場 )のビジョンは、「『技』を磨き、『体』を鍛え、『心』を養うテコンドーの稽古。人生におけるもうひとつの活躍の場へ」です。このビジョンには、指導者である山上先生の「テコンドーを通じて豊かな人生を送れる人を増やしたい」「学生や社会人に、もうひとつの活躍の場を提供したい」という想いが反映されています。学業やアルバイトで忙しく、自分磨きが後回しになっている学生の方。何かを始めたくても、日々の仕事に疲れ、一歩が踏み出せていない社会人の方。そのように感じている方々にとって、テコンドー押上道場は日常とは別の軸を持つきっかけとなる場所となることを目指しています。 ✊ 学業や仕事と並ぶ「もうひとつの活躍の場」学校や職場とは別に、自分を高められる場所があること。それは、人生において大きな意味を持ちます。テコンドーは競技であると同時に、武道でもあります。勝敗だけでなく、自分自身と向き合い、積み重ねていく過程そのものに価値があります。だからこそテコンドー押上道場は、学業や仕事に真剣に取り組んでいる方にこそ来ていただきたい場所です。忙しいからこそ、限られた時間の中で身体を動かし、集中して稽古に向き合う。その時間は、単なる運動にとどまらず、心身を整える貴重な時間になります。また、テコンドーは年齢や経験を問わず始めることができます。学生でも社会人でも、それぞれのペースで「もうひとつの活躍の場」を持つことができます。 ✊ 文武両道による「相乗効果」「忙しい中でテコンドーまでやるのは大変そう」と感じる方もいるかもしれません。しかし実際には、テコンドーを行うことで、生活にメリハリが生まれる、集中力が高まる、ストレスが軽減されるといった効果が生まれます。また、テコンドーには、「礼儀」「廉恥」「忍耐」「克己」「百折不屈」という5つの精神があります。これらの精神は道場の中だけで求められるものではなく、そのまま学業や仕事の場面でも活きてきます。結果として、テコンドーの鍛錬により、学業や仕事にも良い影響を与えるケースが多くあります。 ✊ 実際の稽古生たち実際に、テコンドー押上道場の稽古生たちは、それぞれが学業や仕事に真剣に向き合いながら、テコンドーにも取り組んでいます。日中は学校や職場で過ごし、休日に稽古へ参加したり、夜に自主練習に励んだりする。そんな日常を積み重ねています。それは決して特別なことではなく、「もう少し頑張ってみよう」と一歩踏み出した人たちの選択です。山上先生自身も、学生時代にテコンドーを始め、学業と両立しながら選手・指導者として活動してきました。社会人になってからも、会社員としての仕事と両立しながら指導を続けており、選手としても国際大会で入賞し、現在も全日本大会に出場し続けています。山上先生はいわゆる社会人アスリートです。文武両道は、特別な才能がある人だけのものではありません。ただし、それを継続していくことが簡単ではないのも事実です。だからこそテコンドー押上道場では、その難しさを実際に経験してきた山上先生が、一人ひとりの状況に寄り添いながら指導を行っています。また、同じように両立に励む稽古生同士が互いに刺激を受け、支え合いながら成長していく環境があります。一人では難しいことも、仲間とともにであれば乗り越えられる。それもまた、テコンドー押上道場が大切にしている価値の一つです。 テコンドーは、単なる運動や趣味にとどまりません。学業や仕事に打ち込んでいるからこそ、その延長線上に「もうひとつの活躍の場」を持つ。それが、文武両道という選択です。テコンドー押上道場は、その選択に挑む人にとって、最適な場所でありたいと考えています。一歩を踏み出し、もうひとつの自分と向き合い、成長したい。そのような志を持った方をお待ちしています。

テコンドーにおける腕立て伏せの重要性

テコンドーの稽古では、多彩で力強い蹴り技やスピーディーな組手に目が向きがちですが、上達の土台となるのは地道な基礎鍛錬です。その代表的なものの一つが、腕立て伏せです。ITFテコンドーでは、昇級・昇段審査の課題として筋力項目が設けられており、腕立て伏せや拳立て伏せやが採用されています。これは単なる体力測定ではなく、テコンドーに必要な身体能力や精神力を確認する意味があります。今回は、昇級・昇段審査課題や、なぜ腕立て伏せがテコンドーに重要なのか、その効果や取り組み方についてご紹介します。 ✊審査課題としての規定日本国際テコンドー協会(ITF-JAPAN)の審査では、審査時に「筋力」の審査として男子は拳による「拳立て伏せ」が審査課題となっています。この拳立てによって拳を鍛えることができ、腕立てについても型、組手、板割りに活かすことができます。回数だけを見るとシンプルに感じるかもしれませんが、大切なのは正しいフォームで最後までやり切ることです。 ✊腕立て伏せの効果腕立て伏せは、腕だけではなく、多くの部位を同時に鍛える全身運動です。以下の部位が鍛えられることで、テコンドーの技術向上にも繋がります。 ○上腕三頭筋腕を伸ばす働きを担う筋肉で、突き技や押し出す動作に関係します。例えば、チルギ(突き)では、拳を最後まで鋭く伸ばし切る力が求められます。上腕三頭筋が強くなることで、技のキレや伸びが向上する助けになります。 ○胸・肩まわり大胸筋や三角筋は、構えを維持したり、防御動作を安定させたりする際に役立ちます。ミット打ちや連続攻撃の場面でも重要な部位です。 ○体幹腕立て伏せでは、頭から踵まで一直線の姿勢を保つ必要があります。そのため腹筋・背筋も自然と鍛えられ、蹴り技の軸やバランス力の向上にも繋がります。 ✊拳立て伏せならではの効果中学生以上の男子の審査課題である拳立て伏せには、通常の腕立て伏せに加えて、以下のような効果があります。 ○ 正拳の安定拳立て伏せでは、人差し指と中指の付け根を中心に体重を支えます。これにより、正しい拳の角度や手首の固定感覚を養うことができます。 ○ 打撃部位への意識拳で身体を支えることで、正拳部分への意識が高まり、突き技に必要な集中力や身体の使い方を学ぶことができます。単なる筋力トレーニングではなく、技術練習にもつながる鍛錬です。 ✊腕立て伏せをする際のポイント腕立て伏せに限りませんが、トレーニングにおいて重要なのは、「回数」よりも、1回1回の「質」です。以下のポイントを意識することで、トレーニングの効果をより高めることができます。 ○体幹の維持腕立て伏せの動作中、頭から踵までを一直線に保つ必要があります。疲労によって腰が反ったり、お尻が上がったりすると、腹圧が抜けてしまいます。この「体幹の維持」は、組手で相手の圧力を跳ね返すための「芯の強さ」に直結します。 ○最大可動域(フルレンジ)での遂行胸が床に触れる寸前まで深く下げ、最後は肘をしっかりと伸ばし切る(ロックする直前まで)。広い可動域で筋肉を使うことで、テコンドー特有の大きな動作や、しなやかな身のこなしに必要な筋出力を養います。 ○呼吸との連動身体を下げる時に吸い、押し上げる時に吐く。あるいはインパクトの瞬間に短く吐くといった「呼吸法」との連動を意識することで、型や組手における「力の集中」の基礎が作られます。 ✊精神鍛錬腕立て伏せは、後半になるほど苦しくなります。腕が重くなり、あと1回が遠く感じることもあるでしょう。その時に踏ん張れるかどうか。その苦しさを乗り越えた先に、「忍耐」、「克己」、「百折不屈」といったテコンドー精神が育まれていきます。地味な基礎鍛錬の積み重ねこそ、心を強くする近道です。 腕立て伏せは、特別な道具も広い場所も必要なく、今日から始められるトレーニングです。それでいて、力強い突き、安定した姿勢、そして折れない心を養うことができます。稽古の中でも、自宅での自主トレーニングでも、ぜひ丁寧な1回を積み重ねてみてください。その継続が、テコンドー上達への確かな一歩になります。ちなみに、「腕立て伏せ」は英語で「push-up」と言います。「push」と「up」を漢字で表すと……どこか見覚えのある地名になりますね。

テコンドー押上道場の一般稽古の流れ(2026年時点)

TKD-SORA(押上テコンドークラブ / テコンドー押上道場 )では、毎週土曜日に一般稽古を行っています。少年部から成年部まで、それぞれの年代や目的に合わせながら、テコンドーを通じて「技・体・心」を磨いています。代表の山上先生は元日本代表ですが、優しい人柄で、稽古は非常に丁寧で、個人のレベルに合わせた指導を行っています。 今回は、押上道場の土曜稽古がどのような流れで行われているのか、1日の様子をご紹介します。見学や体験をご検討されている方にも、道場の雰囲気を感じていただければ幸いです。 土曜一般稽古のスケジュール 稽古開始前になると、稽古生たちが少しずつ道場に集まり始めます。先生や仲間へ一礼・挨拶をし、着替えや準備を整えて、気持ちを稽古へ切り替えていきます。また、稽古開始前の時間は一礼・挨拶をするだけでなく仲間とのコミュニケーションや、先生へ課題についての個別質問をしたり、アドバイスをもらうのに最適な時間です。 ○ 少年部(13:00〜14:00) 少年部では、身体を動かす楽しさを感じながら、礼儀や集中力、努力を積み重ねる姿勢も学んでいきます。 少年部稽古の流れ まずは準備体操で身体をほぐし、安全に動ける状態をつくります。その後に行う縄跳びは、リズム感・持久力・バランス感覚を養うための大切なメニューです。 基本動作や基本蹴りでは、技の形だけでなく、正しい姿勢、力の出し方、呼吸、視線、技の意味まで、丁寧に学んでいきます。 型(トゥル)では、一つひとつの動きに込められた意味を理解しながら反復し、組手練習ではステップや身の守り方、相手との距離感を学びます。 稽古の最後には、その日の総括やテコンドー精神について先生から話があり、技術だけでなく心の成長にもつながる時間となっています。 ○ 成年部(13:00〜16:00) 成年部では、初心者から経験者まで、それぞれの課題や目標に合わせて稽古に取り組んでいます。仕事や学業とは別に、自分自身と向き合い、新たな挑戦ができる貴重な時間です。真剣に汗を流しながら、技術の向上はもちろん、心身を磨き、人としても成長していける場となっています。 ▶13:00〜14:00 成年部個人稽古 この時間は、各自が自分の課題と向き合う時間です。サンドバッグで威力を磨く、型を繰り返し精度を高める、昇級審査に向けて課題へ取り組む。同じ空間の中で、それぞれが目的意識を持って稽古に励んでいます。14時以降の全体稽古をより充実したものにするための、大切な1時間でもあります。 ▶14:00〜16:00 成年部全体稽古 押上道場で特に大切にしているのは、力任せではなく、理にかなったテコンドーの動きを身につけることです。 そのため、基本動作・基本蹴り・ステップといった基礎稽古を重視しています。基礎は初心者のためだけのものではなく、中級者・上級者にとっても新たな発見のある重要な稽古です。 多くのことを浅く行うよりも、一つのことを深く繰り返す。その積み重ねが、軸の安定、体重移動、力の伝達、そして質の高い技へとつながっていきます。 基礎を確認したうえで、ミット練習や組手、応用的な内容へと発展させ、実践力を高めていきます。 ▶16:00~ 清掃・ランニング16:00に全体稽古が終了すると、使用したミットや備品を拭き、道場の床を掃除します。道場を整えることも、修練の一部と考えています。 その後、16:15頃から隅田川ランニングへ出発します。通常コースは隅田川沿いを約3.5km。稽古後の身体にもう一段負荷をかけながら、持久力と精神力を鍛えていきます。走り終えた後はウォーキングでクールダウンを行い、道場へ戻って解散となります。 押上道場の土曜日稽古は、技を磨き、体を鍛え、心を整え、仲間と高め合う時間です。そうした積み重ねを通じて、日常の中にある“もうひとつの活躍の場”をつくっていきたいと考えています。

テコンドーの力強い蹴り技を習得するためのポイント

テコンドーと聞いて、多くの方がまず思い浮かべるのは、スピードと威力を兼ね備えた「蹴り技(チャギ)」ではないでしょうか。その魅力は、単なる足の筋力だけではなく、テコンドーの「力の理論」に基づく全身動作によって生み出されています。テコンドーの「力の理論」は、身体に備わっている潜在能力を最大限に引き出すための考え方を、科学的に体系化したものです。今回は、この「力の理論」を応用し、実際にTKD-SORA(押上テコンドークラブ / テコンドー押上道場 )で指導している、力強い蹴り技を身につけるうえで必要なポイントをご紹介します。 テコンドーの「力の理論」に関する記事はこちら! <力強い蹴り技を身につける習得するためのポイント>①全身を使って蹴る蹴り技は、足だけで行うものではありません。足先から足首、膝、股関節、そして体幹、肩に至るまで、全身を一瞬で連動させることが重要です。特に体幹は、下半身の力を足先まで伝える“コントロール役”です。全身が連動したとき、蹴りは一気に重みを持ちます。 ②軸足で蹴る蹴りの威力を支えているのは、蹴る足ではなく「軸足」です。軸足でしっかりと地面を捉え、そこから得られる反発力を体に伝えることで、蹴りに力が乗ります。軸足が不安定な状態では、いくら足を振っても威力は生まれません。「蹴る」というよりも、「軸足で支え、力を生みだす」意識が重要です。 ③当てる部位に力を集中する蹴り技は、力を入れ続けるのではなく、「当たる瞬間」に力を集中させます。足の甲、足刀、かかとなど、打撃部位に一瞬で力を集めることで、衝撃が一点にまとまります。表面を触るのではなく、「相手の内側の衝撃を届かせる」意識が、威力を大きく変えます。 ④体重移動を使う筋力に頼るのではなく、自分の体重を技に乗せることが重要です。また、この体重移動を制御することも大切です。蹴る瞬間に身体を滑らかに移動させることで、その質量がそのまま威力へと変わります。テコンドーでは、この体重の乗せ方が技の重さを大きく左右します。 ⑤バランスを保つ強い蹴りは、安定したバランスの上に成り立ちます。軸足がぶれず、体幹で身体を支えられている状態があってこそ、力は最大限に発揮されます。バランスが崩れると、威力だけでなく次の動きにも影響が出てしまいます。 ⑥呼吸を合わせる呼吸は、力を引き出すための大切な要素です。蹴る直前に息を吸い、当たる瞬間に一気に吐き切ることで、体幹が締まり、力が一気に解放されます。同時に、余分な力を抜くことで動きにも鋭さが生まれます。 ⑦蹴る前の脱力と力の集中テコンドーにおいて、力の「緩急」は非常に重要な要素です。 脱力(緩): 蹴り技を繰り出す直前まで、筋肉を弛緩(脱力)させます。これにより、動作のスピードが増し、筋肉の柔軟性が高まります。集中(急): 弛緩状態から一転、打撃の瞬間に全身の力を爆発的に集中させます。 この「脱力と集中」のコントラストが大きければ大きいほど、技の破壊力とスピードは増します。適切なタイミングで切り替えることが重要です。 速さを備えた力強い蹴り技は、特別な身体能力を持つ人だけができるものではなく、正しい身体の使い方を実践することで、誰もが身につけることができます。そのためには、上記のポイントも、一度理解しただけで身につくものではありません。日々の稽古の中で意識し、繰り返すことで、少しずつ身体に染み込んでいきます。頭での理解と身体での実践を繰り返し積み重ね、自分自身の蹴りをさらに高めていきましょう。

隅田公園「春のそよかぜつながるフェス2026」でテコンドー演武

隅田公園で開催された「春のそよかぜつながるフェス2026」にて、TKD-SORA(押上テコンドークラブ / テコンドー押上道場 )は4月5日(日)に演武を披露しました。当道場は2023年から本フェスに参加しており、今回で3度目の演武機会となります。昨年は天候の影響で中止となったため、2年ぶりの開催となりました。 今年の演武は、「ワンチーム」を強く実感できるものとなりました。初めて演武に出演するメンバーが半数を占め、さらに少年部からの初参加もありましたが、経験や年齢、帯の違いに関係なく、全員で一つの演武を作り上げることができました。 その背景には、いくつかの工夫があります。技術面では、全員で動きを揃えるステップを取り入れたほか、基本蹴りの構成も見直し、「揃えること」を重視した演出にしました。また運営面では、司会進行や当日のサポート、板の管理などをメンバーで分担することで、一人ひとりが当事者として関わり、全体としての一体感を高めることができました。 YouTubeで公開されている演武の動画はこちら! 【演目】① ミット蹴り② ステップ/基本蹴り/基本動作③サージュチルギ/サージュマッキ④約束組手⑤型 ウォニョ(4番目の型)⑤自由組手⑥板割り 今回の演武に向けた準備を通じて、稽古生一人ひとりの技術は確実に向上しました。同時に、本番を終えたからこそ見えてきた課題もあります。これらを今後の稽古で一つひとつ改善し、さらなる技術向上と、次回のより良い演武へとつなげていきたいと考えています。 最後に、今回の演武に向けて努力を重ねた稽古生の皆さん、フェスを企画・運営してくださったスタッフの皆さま、そして当日ご覧いただき温かいご声援を送ってくださった皆さまに、心より感謝申し上げます。今後とも、テコンドー押上道場をよろしくお願いいたします。

設立3周年を迎えて―指導者へのインタビュー―

2023年3月に山上先生が設立したTKD-SORA(押上テコンドークラブ / テコンドー押上道場 )は、今年の3月で、3周年を迎えました。創設当時は新型コロナウイルスの影響下にあり、稽古中のマスク着用が必須など多くの制約の中でのスタートでしたが、現在では子どもから大人までが集う、活気あふれる場へと成長しつつあります。今回は、指導者の山上先生に、この節目を迎えた心境や道場への想い、今後の展望について伺いました。 Q. 3周年を迎えたことについて、今のお気持ちを教えてください。 ― この節目を迎えられたのは、日々稽古を続ける稽古生の皆さん、支えてくださるご家族、そして応援してくださる地域の皆さまや他の道場の方々のおかげです。心から感謝しています。 押上という場所で道場を始めようと思ったのにも、理由があります。東京スカイツリーという「見上げるシンボル」があるこの街は、自然と視線が上を向く場所です。空を見上げるたびに、「上には上がいる」という事実を思い出させてくれる。その感覚は、慢心せず、謙虚に修練へ向き合うというテコンドーの精神とも重なります。目標の存在を意識し続けながらテコンドーを学ぶ場所として、これ以上ない環境だと感じました。 そして「TKD-SORA」はいつも上にある「空」を取り入れた押上道場の愛称です。 実際にこの3年間、未経験からスタートしたメンバーが着実に昇級し、上級者を目指す稽古生も増えてきました。中級・上級へとつながる層が育ち、道場としての土台が少しずつ整ってきたことを実感しています。これから先、さらに上級者や有段者が育ち、道場を引っ張っていく存在へと成長していくことを、とても楽しみにしています。 Q. 今後の道場の目指す姿を教えてください。 ― 押上道場は、「テコンドーで豊かな人生を送れる人を増やしたい」、そのために「学生や社会人にもうひとつの活躍の場を提供したい」という想いから生まれました。その想いを形にしたものが、ミッション「テコンドーで人生をもっと豊かで面白い旅へ」、ビジョン「『技』を磨き、『体』を鍛え、『心』を養うテコンドーの稽古。人生におけるもうひとつの活躍の場へ」です。そして、その歩みを支える道場のモットーが「勇往邁進」です。 この3年間、稽古生の皆さんがテコンドーを通して成長し、自信をつけ、輝いていく姿を見るたびに、この理念が少しずつ現実になってきていると感じています。今後も、競技としてさらなる高みを目指す人を育てると同時に、一人ひとりの目的やペースを大切にしながら、稽古生の皆さんの人生を豊かにする「場」として、道場をさらに発展させていきたいと考えています。 そのためには、まずテコンドーそのものの価値を、正しく伝え続けていくことが欠かせません。試合で勝つこと、昇級・昇段することももちろん大切ですが、それだけが目的ではありません。テコンドーは本来、多彩で力強い技が特徴であると同時に、礼儀・廉恥・忍耐・克己・百折不屈といった人格形成を重んじる武道です。その本質をぶらすことなく、誰が見ても「これはテコンドーだ」と分かる在り方を守り続けていきたいと考えています。そして、この価値観に共感し、ともにテコンドージャーニーを歩む仲間を、これからも増やしていきたいと思っています。 Q. 稽古生の方々へメッセージをお願いします。 ― 稽古生の皆さまには、日頃から私の指導にも真摯についてきていただき、感謝の気持ちしかありません。テコンドーには、競技としての厳しさだけでなく、スポーツとしての「楽しさ」や「喜び」、そして人の心を動かす力があります。皆さんが真剣に稽古へ取り組み、互いを尊重し、支え合う中で素晴らしい「道場のカルチャー」を育てていっていただきたいと考えています。テコンドーを続ける中では、壁にぶつかったり、思うようにいかない時期もあるかもしれません。それでも「続けたい」と思えるように、押上道場が皆さんにとって前向きになれる居場所であり続けらるよう、私自身も全力で向き合っていきます。そして、押上道場の未来を作っていくのは、他でもない、今ここで稽古に励んでいる皆さん一人ひとりです。これからも一緒に、目線を上げて、歩みを進めていきましょう。

パワーブレイキング(ウィリョク)競技の魅力

テコンドーには、華やかな跳び蹴りを競う「スペシャルテクニック」や、スピードと駆け引きが交錯する「組手」など、さまざまな競技があります。その中で、最も静かで、最も重い緊張感をまとった競技が、パワーブレイキング(ウィリョク)です。多くの人が思い浮かべる「板割り」は、演武や余興のイメージが強いかもしれません。しかし、ITFテコンドーにおけるパワーブレイキングは、単なるデモンストレーションではありません。物理学に基づいた理論、極限まで鍛え上げられた攻撃部位、そして針の穴を通すような精神集中。それらが三位一体となって、初めて成立する極めて競技性の高い種目なのです。今回は、そんなパワーブレイキングの競技に詰まった魅力を紹介します。 パワーブレイキングのルール パワーブレイキングは、指定された手技・足技を用いて、一撃で何枚の板を完全に割れるかを競う競技です。男子は手技2種目(正拳、手刀)、足技3種目(横突蹴り、回し蹴り、後ろ回し蹴り)の計5種目、女子は手技1種目(手刀)、足技2種目(横突蹴り、回し蹴り)の計3種目を行い、それぞれで割った板の枚数(ポイント)の合計で勝敗が決まります。完全なポイントを獲得するためには板は一撃で完全に割らなければなりません。また、指定された攻撃部位以外が板に触れたり、試技の後にバランスを崩して転倒した場合も失敗と判定されます。手技・足技を通して、全身の「威力」を総合的に競う競技であることが大きな特徴です。※大会規定により競技形式が異なる場合があります。 テコンドー技術の結集 パワーブレイキングは、力が強ければ成功するわけではありません。大きな筋肉があっても、重い体重があっても、力を攻撃部位に伝える「技」の完成度が低ければ板は割れません。一方で、体格に恵まれていなくても、自身の潜在能力を効果的に引き出すことができれば、驚くほどの枚数を割る選手もいます。その潜在能力を最大限に引き出す理論を体系化したのが、創始者チェ・ホンヒ総裁による「力の理論」です。力の理論は、テコンドーのあらゆる競技に通じる考え方ですが、パワーブレイキングでは、それが身についているかどうかが、極めて明確に表れます。板が割れるか、割れないか。結果は、言い訳の余地なく示されるのです。 力の理論に関する記事はこちら。 「一撃しかない」という極限 パワーブレイキング最大の魅力は、やり直しのきかない一撃に、すべてを懸ける点にあります。型のように流れはなく、組手のように次の展開もありません。板の前に立ち、呼吸を整え、一瞬で決断し、打つ。迷いがあれば、板は割れません。力が足りなくても、割れません。集中が欠けても、割れません。この「一度きり」という条件が、その一撃の重みを高め、選手にとっても、観る者にとっても、この上ない緊張感を生み出します。そして、スペシャルテクニックの華やかさとも、組手の激しさとも異なる、静かで重い「武道的な迫力」が会場を包み込むのです。 恐怖心に打ち勝つ力 硬い板に、素手・素足で全力で向かえば、強い衝撃を受けるのは避けられません。痛みはもちろん、状況によっては怪我のリスクも伴います。しかし、恐怖を抱えたまま放った技は、フォームが乱れ、威力が逃げ、板が割れないばかりか、かえって危険を招くこともあります。自分の鍛錬を信じる。自分の技を信じる。恐怖を受け止めたうえで、技を放つ。パワーブレイキングは、技術だけでなく、恐怖と向き合い、それを越える心の強さを養う競技でもあります。 パワーブレイキングは、テコンドーの「力の理論」を具現化した、最も分かりやすい競技です。技術が結集し、覚悟が定まり、恐怖を越えた一撃が放たれたとき、割れた板の向こう側にある「積み重ね」が、観る者にも確かに伝わります。その重みと感動こそが、パワーブレイキングという競技の、何よりの魅力なのです。TKD-SORA(押上テコンドークラブ / テコンドー押上道場 )でも選手の育成を行っていきます。学生アスリートや社会人アスリートなども含め、これから素晴らしい選手が育つことを楽しみにしています。